空き家はなぜ増え続ける?「売らない」「貸さない」所有者が抱える事情
2026/10/20
はじめに
住宅街を歩いていると、雨戸が閉まったままの家や、庭木が伸びた住宅を見かけることがあります。近隣の方からすれば、「住む予定がないのなら売ればよいのに」「誰かに貸せば建物も傷みにくいのでは」と感じるかもしれません。住宅を探している人にとっても、使われていない家が市場に出てくれば、住まいの選択肢が増えるように思えるでしょう。しかし、空き家の所有者が置かれている状況をたどると、売却や賃貸を選べない理由は一つではありません。建物の状態や地域の需要だけでなく、相続、家財の片付け、家族の意見、将来への不安などが重なり、結論が出ないまま時間が過ぎている場合があります。
総務省の令和5年住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は約900万戸で、総住宅数に占める割合は13.8%でした。ただし、この数字には、入居者を募集している賃貸住宅や、売り出し中の住宅、別荘なども含まれます。すべてが管理されずに放置されている家ではなく、すべての所有者が活用を拒んでいるわけでもありません。一方で、募集にも売却にも進まず、家族の中で扱いが決まらない住宅があることも事実です。空き家問題を考えるには、建物が空いているという外見だけでなく、誰が、何に困り、どの段階で判断を止めているのかを見る必要があります。
実家を相続した人にとって、その家は単なる不動産ではありません。親が暮らしていた場所であり、家族が集まった記憶が残り、仏壇や写真、生活用品がそのまま置かれている場所でもあります。売却すれば気持ちの整理がつかず、貸せば必要なときに使えなくなると感じ、解体するにもまとまった費用がかかるとなれば、保有を続けることが当面の選択になりやすくなります。そこに遠距離での管理や仕事、介護などの事情が加われば、検討そのものが後回しになることもあるでしょう。「売らない」「貸さない」という状態の背後には、所有者がまだ解決できていない複数の課題が隠れていることがあります。
この記事では、空き家が増える仕組みを整理したうえで、所有者の心理、家族関係、経済的な負担、取引上の障壁を順に考えます。その目的は、すべての空き家に売却を勧めることではありません。持ち続ける場合にも必要な準備があり、売る場合や貸す場合にも、先に確認すべき条件があります。所有者の事情と、買主・借主が求める安心の両方を理解することで、住宅を次の使い方につなぐための現実的な道筋が見えてきます。

▼目次
第1章:空き家の増加は、所有者の意思だけでは説明できない
1-1. 「空き家」という言葉には、異なる状態の住宅が含まれる
空き家という言葉から、屋根が傷み、庭が荒れた一戸建てを思い浮かべる方は少なくありません。しかし、統計上の空き家には、賃貸用、売却用、別荘などの二次的住宅、それらを除く空き家という異なる区分があります。例えば、退去後に次の入居者を募集しているアパートの一室も、空き家として数えられます。これに対して、相続後に使い道が決まらない実家は、募集活動すら始まっていない場合があります。同じ「人が住んでいない住宅」であっても、市場に出ている住宅と、市場に出る前で止まっている住宅とでは、必要な対応が違います。
令和5年の調査では、賃貸・売却用および二次的住宅を除く空き家は約386万戸でした。ただし、この区分についても、すべてが危険な建物であるとか、所有者に利用意思がないという意味ではありません。入院や施設への入所によって居住者が不在になった家など、個別の事情を持つ住宅も含まれます。統計上の分類と、空家法に基づく行政上の判断も、そのまま一致するものではありません。空き家の数を理解するときは、住宅が空いている理由と、管理・利用の状況を分けて考えることが大切です。
1-2. 住む人がいなくなる時期と、次の使い方が決まる時期には差がある
住宅が空くきっかけは、必ずしも売却や住み替えの計画とは限りません。一人暮らしだった親の死亡、長期入院、介護施設への入所など、家族が予想していなかった出来事から始まる場合があります。そのとき、家族が最初に対応するのは、医療や介護、葬儀、預貯金、各種の届出といった生活上の課題でしょう。住宅については、ひとまず施錠し、電気や水道の扱いを決めるところまでで手いっぱいになることもあります。誰も住まなくなった日から、売却や活用の準備が整っているわけではないのです。
空き家の総数は、新たに空く住宅と、再び使われたり取り壊されたりする住宅との関係で変化します。相続した家を売りたいと考えていても、権利関係や家財の整理に時間がかかれば、その間は空き家として残ります。また、買主が現れても、建物の不具合や道路との関係などを確認し、契約条件を調整する期間が必要です。こうした時間差が各地で積み重なると、活用の意思がある住宅も空き家の状態を続けることになります。空き家を減らすには、使われなくなった後の対応だけでなく、住まいの引継ぎを早く準備できる仕組みも必要になります。
1-3. 住宅がある場所と、住みたい人が探す場所が一致しない
住宅は、需要のある場所へ商品そのものを移すことができません。建物の広さや庭の豊かさに魅力があっても、通勤先、学校、医療機関、買い物施設との距離が、購入希望者の暮らしに合わない場合があります。反対に、利便性の高い場所でも、前面道路が狭い、駐車しにくい、階段が多いといった条件が利用の障壁になることがあります。「まだ住める家」であることと、「その地域で次の利用者が見つかる家」であることは同じではありません。価格を下げれば必ず解決するとも限らず、改修や維持にかかる負担まで含めて検討されます。
福岡県内でも、福岡市中心部と都市圏の住宅地、県内の地方都市や郊外では、探される住宅の条件が異なります。交通利便性を重視する地域もあれば、車を複数台置ける敷地が評価される地域もあるでしょう。九州圏の郊外や農村部では、広い土地が魅力になる一方、庭木や附属建物の管理が購入後の負担になることもあります。ただし、都市部なら必ず売れ、郊外なら売れないという区分はできません。空き家の流通しやすさは、地域の需要と、その住宅が持つ具体的な条件との組合せによって変わります。
1-4. 「残している理由」は、一つ解消すれば終わるとは限らない
空き家を持ち続ける理由には、物置としての利用、解体費用への抵抗、将来の利用予定などがあります。国土交通省の令和6年空き家所有者実態調査でも、こうした理由が示されています。ここで注意したいのは、物置として使っているからといって、所有者が住宅の将来を十分に決めているとは限らないことです。家財を動かす場所がなく、その結果として建物全体を残していることも考えられます。また、将来使う可能性があっても、誰がいつ使うのかまでは具体化していない場合があります。
実務上想定される例として、家財が片付けば売りたいと考えている人が、家族の同意と片付け費用の両方で止まっている状況があります。この場合、査定額だけを伝えても、売却に進むとは限りません。反対に、費用が問題だと思われていた人が、親族への説明ができたことで検討を進められることもあるでしょう。外から見える理由と、本人が判断をためらう中心的な理由は、違っていることがあります。所有者の事情を整理するときは、気持ち、家族、費用、物件条件のどこが判断を止めているのかを確認する必要があります。

第2章:売却や賃貸をためらう、気持ちと家族の事情
2-1. 実家を手放すことと、家族の記憶を失うことが重なってしまう
相続した実家には、価格では表せない意味があります。柱についた傷、親が手入れしていた庭、家族で囲んだ食卓など、建物の各所が記憶と結びついているからです。自分は住まなくても、帰省すれば以前の暮らしにつながれると感じる人もいるでしょう。そのため、売却を検討すること自体が、親の思いや家族の歴史を切り捨てるように感じられる場合があります。周囲が合理的な説明を重ねても、気持ちの整理には別の時間が必要です。
ただし、記憶を大切にする方法が、必ず建物全体の保有でなければならないとは限りません。室内や庭を写真に残す、家具の一部を受け継ぐ、家族で思い出を話す機会を設けるなど、住宅の処分と切り離せることもあります。大切なのは、所有者に気持ちの切替えを迫ることではなく、何を残したいのかを具体的にすることです。建物を残したいのか、家族が集まる場所が必要なのかによって、選べる方法も変わります。家への愛着を否定せず、建物の所有と、家族の記憶の継承を分けて考えることが、判断の助けになります。
2-2. 家財の片付けは、処分量より「判断の多さ」が負担になる
長く暮らした住宅には、家具や家電だけでなく、衣類、写真、手紙、食器、書類などが残っています。一つ一つについて、捨ててよいのか、誰かが必要としていないか、重要なものが混じっていないかを判断する必要があります。仏壇や位牌など、家族の考え方や宗教上の扱いを確認したいものもあるでしょう。休日に遠方から通い、数時間作業して帰る生活では、片付けが進まないまま疲労だけが増えることもあります。家財があるために室内の確認ができず、住宅の状態さえ把握できていない場合もあります。
この負担を軽くするには、最初から家全体を空にすることを目標にしない方法があります。まず権利関係の書類や貴重品を確保し、家族が残したいものを確認してから、処分対象を分けていく進め方です。業者に依頼する場合も、作業範囲、処分方法、見積りの内訳を確認し、必要な物まで一括で処分されないようにします。売却では家財を残した条件が合意できる可能性もありますが、買主に当然引き取ってもらえるわけではありません。片付けの問題は、家財の量だけでなく、誰が何を判断し、どこまで作業するのかを決めることで整理しやすくなります。
2-3. 「いつか使うかもしれない」が、期限のない保有につながる
子どもが戻るかもしれない、退職後に住むかもしれない、親族の帰省先として必要かもしれないという考えには、それぞれ理由があります。先の暮らしが決まっていない段階で、将来の選択肢を残したいと思うのは自然なことです。しかし、使う人と時期が決まらないままでは、保有期間だけが長くなることがあります。例えば、子どもが戻ることを期待していても、本人は別の地域で生活基盤を築く予定かもしれません。家族の希望を確認しないまま、所有者一人が可能性を抱え続けている場合もあります。
将来利用の予定は、確定か断念かの二択にする必要はありません。誰が使う可能性があるのか、何年後までを想定するのか、その間の管理費を誰が負担するのかを具体化してみることが大切です。年に数回利用するなら、その利用のために必要な維持費と、別の宿泊先を使う費用を比較する考え方もあります。また、将来住みたい家でも、現在の状態で安全に使えるとは限らず、改修費の確認が必要です。「いつか使う」を保有の理由にする場合は、利用する人、見直す時期、維持する予算まで合わせて考えることが重要です。
2-4. 家族全員が賛成していても、実際に動く人が決まっていない
家族の意見が対立している住宅だけが、動かなくなるわけではありません。全員が「そのうち売った方がよい」と思っていても、不動産会社への連絡、資料の収集、現地の立会いなどを担う人が決まらず、検討が止まることがあります。近くに住む家族だけが草刈りや近隣対応を続け、遠方の家族は負担の大きさを実感できていない場合もあるでしょう。費用を出している人と、処分について発言する人が異なると、不公平感も生じやすくなります。方針への賛成と、作業や支出への合意は、別に確認する必要があります。
法律上、誰が所有し、誰の同意で何ができるのかという問題も整理しなければなりません。共有の不動産全体を売却する場合は、原則として共有者全員の合意が必要となりますが、管理行為などは行為の内容によって必要な意思決定が異なります。また、固定資産税を支払っている人が、単独で売却できる所有者とは限りません。連絡窓口、権利を持つ人、費用負担者を区別し、必要に応じて司法書士や弁護士に確認することが大切です。家族間では「どうするか」だけでなく、「誰が確認し、誰が費用を負担し、誰が決めるか」まで共有する必要があります。

第3章:売る・貸す・壊す、それぞれに費用と条件がある
3-1. 売却価格がついても、所有者の手元にお金が残るとは限らない
空き家を売れば、その代金で問題が片付くと考えたくなるかもしれません。しかし、売却までには、家財処分、測量、登記、仲介、必要な調査など、物件や契約条件に応じた費用が生じます。土地の境界や建物の状態によっては、先に確認しなければ価格や引渡し条件を決めにくいこともあります。売却代金が比較的小さい物件では、こうした費用の割合が大きく感じられるでしょう。所有者に資金の余裕がなければ、後から代金が入る見込みがあっても、最初の支出が障壁になる場合があります。
一方で、すべての作業を売主が先に終えなければ売れないわけではありません。建物や家財をどの状態で引き渡すか、測量をどのように扱うかは、物件の状況と買主の意向を踏まえて調整します。ただし、条件を省けば負担が消えるのではなく、価格や買主の範囲に影響することがあります。査定では、予想される売却価格だけでなく、費用、期間、必要な準備を合わせて確認することが重要です。売却の判断では、広告に出す価格よりも、必要な支出を差し引いた手残りと、成約までの負担を見る必要があります。
3-2. 貸せば収入になる一方で、所有者としての役割は続く
売却をためらう人にとって、所有権を残したまま家賃を得られる賃貸は、魅力的な選択肢に見えます。ただし、空いている家をそのまま貸せるとは限りません。雨漏り、給排水、電気設備、給湯器、床の傷みなど、生活に関わる状態を確認し、貸し出す条件を整える必要があります。募集前の改修費に加え、入居中の修繕や管理、空室期間の負担も考えなければなりません。月々の家賃だけを見て採算を判断すると、まとまった修繕が必要になったときに想定が崩れることがあります。
また、誰かに貸した後は、所有者が好きなときに自由に使える状態ではなくなります。将来自分や家族が住みたい場合には、契約の種類と終了の条件を慎重に検討する必要があります。定期建物賃貸借という期間満了で終了する仕組みもありますが、法律上の方式や説明などの要件があり、単に短い契約期間を書けばよいわけではありません。借主にとっても生活の拠点となるため、所有者側の予定が曖昧なまま募集することは避けたいところです。賃貸は「売らずに済む方法」であると同時に、住まいを提供し続ける責任と費用を引き受ける選択でもあります。
3-3. 解体をためらう背景には、工事費と税負担への不安がある
古い住宅を取り壊せば、建物の倒壊や屋根材の飛散などの心配を減らせる場合があります。しかし、解体には工事費がかかり、構造、規模、敷地への進入条件、残置物などによって負担が変わります。工事後にも、土地の草刈りや不法投棄への対応などが必要になることがあります。更地にしたからといって、買主がすぐ見つかるとは限りません。建物を利用したい購入者の可能性も含め、解体前に物件の活用方法を確認することが重要です。
税金については、住宅の敷地に適用されている住宅用地の特例が、解体後に適用されなくなる場合があります。ただし、建物に対する課税は別に考える必要があり、土地・建物を合わせた実際の負担が一律に何倍になるとはいえません。また、管理不全空家や特定空家については、法に基づく勧告によって住宅用地特例の対象から外れる場合があります。建物を残しておけば、どのような状態でも税の軽減が続くという理解も正確ではありません。解体の損得は、工事費、解体後の土地の用途、税負担、維持管理費を合わせて比較しなければ判断できません。
3-4. 持ち続けることにも、見えにくい費用が積み重なる
売却にも賃貸にも解体にも費用がかかると、何もしないことが最も安く感じられることがあります。けれども、保有を続ける間にも、税金、保険、草木の手入れ、見回り、交通費などが発生します。家族が無償で管理している場合でも、休日や移動時間という負担があります。さらに、雨漏りなどを把握できないまま時間が過ぎれば、当初は小さかった不具合が広がる可能性もあります。支出が請求書として一度に表れないため、保有の負担は過小評価されやすいのです。
ただし、早く手放せば必ず有利だと断定することもできません。具体的な利用予定があり、管理体制が整い、必要な費用を負担できるのであれば、保有を続ける判断にも理由があります。大切なのは、売却時の一時的な費用と、保有を続ける毎年の費用を同じ期間で比較することです。例えば、今後数年間の維持費と想定される修繕費を整理すると、判断の前提が見えやすくなります。保有は費用の発生しない待機状態ではなく、住宅を維持するための支出と管理を続ける選択です。

第4章:結論を急がず、判断できる状態をつくる
4-1. 最初に確認するのは、売値よりも所有と相続の状況
空き家の方針を考えるとき、最初から売却価格だけを調べても、取引の準備が進むとは限りません。登記事項証明書で名義を確認し、相続が発生している場合は、遺言や遺産分割の状況、関係する相続人を整理する必要があります。登記名義が亡くなった祖父母のままで、その後も相続が重なっていれば、確認する範囲が広がることがあります。建物の増築部分や附属建物などについて、登記と現況に違いがないかを見ることも大切です。権利関係の確認は、売却を決めた人だけに必要な作業ではありません。
相続登記は令和6年4月から義務化され、相続によって不動産の所有権を取得したことを知った日から、原則として3年以内の申請が必要です。義務化前に相続した不動産も対象となり、施行前から取得を知っていた場合の期限は、原則として令和9年3月31日です。ただし、知った時期などによって期限の扱いが異なるため、個別に確認する必要があります。相続人申告登記という制度もありますが、これだけで売却に必要な権利関係の整理が完了するわけではありません。住宅の使い道が未定であっても、所有者と相続の状況は先に確認し、必要な登記手続を進めることが重要です。
4-2. 選択肢を比較する前に、住宅の状態と地域の需要を調べる
売るか、貸すか、残すかを比べるには、その家で実際に何ができるのかを把握する必要があります。不動産会社には周辺の取引や募集状況を確認し、建物の状態に不安があれば、建築士などによる調査を検討します。道路との関係、境界、再建築の条件、給排水の状況なども、選択肢に影響します。外観がきれいでも利用上の課題がある住宅や、古く見えても条件次第で利用を検討できる住宅があります。所有者の印象だけで改修や解体を決めず、判断に必要な情報を集めることが大切です。
比較するときは、各方法の費用だけでなく、準備期間、管理の継続、家族が使える可能性も並べて考えます。売却では買主が受け入れられる状態と条件を、賃貸では借主が安全に暮らせる状態と採算を確認します。解体では更地になった後の利用先を、保有では利用予定と管理担当者を明確にします。行政の相談窓口や空き家バンクも情報収集の入口になりますが、登録すれば必ず成約するものではありません。選択肢はイメージで比べず、その住宅の調査結果と地域の需要を踏まえた条件で比較する必要があります。

4-3. 方針が決まらない間も、安全と近隣への配慮は止めない
家族の話合いや相続の手続が終わらない場合でも、住宅の管理は続けなければなりません。屋根や外壁の傷み、雨漏り、庭木の越境、排水の詰まり、施錠の状態などを確認し、問題があれば必要な対応を検討します。遠方の所有者が毎回訪問できない場合は、地域の管理サービスなどを利用する方法もあります。依頼するときは、屋外だけを見るのか、室内も確認するのか、異常時にどう報告するのかを決めておきます。写真と日付の記録を残すと、変化を把握し、家族間で状況を共有しやすくなります。
空家法では、放置すれば特定空家になるおそれのある状態の住宅を、管理不全空家として指導などの対象にしています。住宅用地特例が外れるのは、単に空き家になった時点ではなく、法に基づく勧告を受けた場合など、所定の条件に当てはまるときです。ただし、税の扱いだけを管理の基準にするのは適切ではありません。周囲への被害を防ぐことと、将来の利用可能性を保つことの両方から、必要な手入れを考えるべきでしょう。「まだ売ると決めていない」という事情と、「当面の管理をしなくてよい」という判断は分ける必要があります。
4-4. 次に見直す時期を決め、買主や次の世代に情報をつなぐ
すぐに結論を出せない場合は、何を確認したら再び話し合うのかを決めておく方法があります。家財整理の見積りが出たとき、相続登記が完了したとき、家族の転勤や退職の予定が分かったときなど、具体的な節目を置くことです。その間に誰が何を調べるのかも決めておけば、同じ話合いを繰り返すだけになりにくくなります。保有を選ぶ場合も、管理を担う人が高齢になったときや、まとまった修繕が必要になったときにどうするかを考えます。今の所有者が管理できることと、次の世代も引き継げることは別の問題です。
売却に進む場合は、建物の不具合や修繕履歴、近隣との取り決めなど、分かっている情報を整理して買主へ伝える準備が必要です。買主が心配するのは古さだけでなく、購入後にどのような費用や対応が必要になるか分からないことでもあります。所有者が把握している事実と、未確認の事項を区別して伝えることが、条件の調整に役立ちます。売主の負担を減らすことと、買主が納得して引き受けられることを両立させるためにも、情報の引継ぎが重要です。空き家の問題は、処分方法を決めるだけでなく、次の判断者や利用者へ必要な情報を渡せる状態にすることで前に進みます。

まとめ
空き家が増える理由を、「所有者が売ろうとしないから」とだけ説明することはできません。住む人がいなくなるきっかけには、死亡、入院、介護、転居などがあり、その後に相続や家財の整理、家族間の調整が続きます。住宅が空く時期と、次の利用に移れる時期には差があり、さらに地域の需要や建物の条件によっても必要な準備は変わります。使われていないように見える家でも、所有者の中では、気持ち、費用、将来の予定が整理できていないことがあります。事情を理解することは、管理の問題を見過ごすことではなく、動けない理由に合った対応を考えるための出発点です。
実家への愛着や、将来家族が使うかもしれないという思いは、簡単に否定できるものではありません。一方で、利用する人や時期が決まらないまま保有を続けると、管理の負担だけが特定の家族に集中することがあります。誰が建物を見に行き、誰が支出し、誰が方針を決めるのかを確認することは、住宅を売るかどうかとは別に必要です。家財についても、すべてを一度に処分しようとせず、残したい物や重要書類から整理していけば、次の作業を決めやすくなります。空き家の検討では、所有者に結論を急がせるより、判断を止めている課題を一つずつ具体化することが重要です。
経済的な比較にも、丁寧な確認が必要です。売却では価格だけでなく手残りと準備費用を、賃貸では改修費や管理費、契約上の条件を見なければなりません。解体では工事後の土地利用や税負担を、保有では毎年の維持費と将来の修繕を含めて考えます。固定資産税が心配だから建物を残すという判断も、住宅用地特例の適用条件や建物の管理状態を確認しなければ、十分な比較にはなりません。それぞれの方法について、誰が、いつ、どのくらいの負担を引き受けるのかを、同じ時間軸で整理することが大切です。
すぐに方針が決まらなくても、先に進められる作業はあります。所有と相続の状況を確認し、必要な登記手続を行い、建物や土地の条件を把握し、当面の管理担当者を決めることです。不動産会社は地域の需要や流通条件を、司法書士は登記や相続手続を、建築士などは建物の状態を確認する役割を担います。家族間で権利や意見の調整が難しい場合には、弁護士への相談が必要になることもあります。専門家に相談する際も、「売るべきか」という大きな問いだけでなく、「何が未確認で、どこが進まないのか」を伝えられると、確認事項が明確になります。
買主や借主の立場から見れば、空き家が市場に出てくることだけでなく、安心して検討できる情報がそろっていることが重要です。建物の不具合、修繕の履歴、道路や境界の状況、残される家財などが分かれば、必要な費用と利用方法を考えやすくなります。所有者にとっても、情報を整理する過程で、残す理由や手放す条件を言葉にできるようになります。売却、賃貸、保有、解体のどれかが、すべての住宅に共通する正解ではありません。大切なのは、空き家を期限のない保留状態にせず、管理を続けながら、根拠を持って次の使い方を選べる状態にしていくことです。
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