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越境とは?不動産売買で隣地との境界を確認する理由

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越境とは?不動産売買で隣地との境界を確認する理由

越境とは?不動産売買で隣地との境界を確認する理由

2026/08/24

はじめに

不動産を売買するとき、「越境」という言葉を初めて耳にする方は少なくありません。日常生活ではほとんど使わない言葉ですが、土地や戸建住宅の取引では、境界とともに確認しておきたい事項の一つです。例えば、隣家の屋根や雨樋が自分の土地側へ出ている、こちらのブロック塀の一部が隣地側へ入っている、庭木の枝が境界を越えているといった状態が考えられます。目で見て分かるものだけでなく、地中の給排水管などが他人の土地を通っている場合もあり、現地を眺めただけでは把握できないケースもあります。

もっとも、越境があるからといって、その不動産が直ちに売買できなくなるわけではありません。長い年月を経た住宅地では、建築当時の施工状況やその後の増改築、境界確認の精度などを背景として、現在の基準から見ると隣地との関係を整理しておいた方がよい状態になっていることがあります。特に古くから形成された住宅地では、建物や塀が造られた時期と現在とで測量技術や所有者が異なり、所有者自身が越境の存在を知らないまま生活していることもあります。

一方、不動産売買では「これまで問題になっていなかった」という事実だけで判断することはできません。売主と現在の隣地所有者との関係では問題がなくても、売買によって所有者が変われば、将来の建て替えや塀のやり替え、土地の売却などをきっかけに問題が表面化する可能性があります。買主からすれば、購入後に初めて越境を知ることは避けたいところですし、売主にとっても、契約後や引渡し後に「説明を受けていなかった」と指摘される状況は望ましくありません。

越境で最も大切なのは、越境しているものがあるかどうかだけではなく、「境界がどこにあり、何が、どちらからどちらへ、どのような状態で越えているのか」を売買前にできる限り整理することです。

福岡県内でも、福岡市中心部のように敷地が比較的コンパクトで建物同士の距離が近い地域と、郊外の戸建住宅地では確認するポイントが異なることがあります。また、九州では台風や大雨などへの備えから屋根、雨樋、擁壁、排水設備などが敷地周辺に設けられている住宅も多く、それらと境界との位置関係を確認することには実務上の意味があります。この記事では、越境という言葉の意味だけではなく、不動産会社が現地や資料のどこを確認しているのか、境界確認や測量とどのようにつながるのか、そして越境が見つかった場合に売主・買主がどのように考えればよいのかまで、実際の不動産取引に沿って整理していきます。

 

 

 

 

 

 

第1章:不動産売買における「越境」とは何を意味するのか

 

1-1. 越境とは「境界を越えている状態」を指す

不動産における越境とは、一般的には一方の土地や建物に属する物や設備などが、隣接する土地との境界を越えて存在している状態を指します。分かりやすい例としては、屋根の軒先や雨樋、庇、ブロック塀、フェンス、樹木の枝などがあります。自分の所有物が隣地側へ越えている場合もあれば、隣地の所有物が自分の敷地側へ越えている場合もあり、売買ではどちらの方向の越境であるかを区別して確認します。また、地上部分だけでなく地中や上空について確認が必要になるケースもあるため、「境界線の上を見ればすべて分かる」というものではありません。

越境を理解するときの基本は、まず土地の境界を基準として、そこから他人の所有物が入り込んでいるのか、自分の所有物が外へ出ているのかを整理することです。そのため、越境の確認と境界の確認は切り離して考えることができません。例えばブロック塀が隣地側へ数センチ出ているように見えても、そもそも境界位置が正確に確認されていなければ、本当に越境しているのか判断できないことがあります。反対に、境界標や確定測量図などによって境界が明確になって初めて、それまで問題がないと思われていた構造物の越境が判明することもあります。

住宅地で見られる越境には、さまざまな背景があります。建築された当時には所有者同士が親族だった、昔は一筆の土地だったものを後に分割した、古い塀を境界だと思って利用してきたなど、現在の状況だけでは分からない経緯が存在することがあります。また、屋根や雨樋については建物を建築した時点では意識されていなくても、その後に境界を正確に測ったことで位置関係が分かる場合があります。したがって、越境を発見したからといって直ちに「誰かが意図的に他人の土地を使っている」と考えるのではなく、まず事実関係を確認する姿勢が必要です。

不動産会社が売却相談を受けた場合にも、現地で構造物が境界付近にあるからという理由だけで越境と断定することは通常できません。境界標、測量図、地積測量図、過去の境界確認資料などを確認し、必要に応じて土地家屋調査士などの専門家による測量を検討します。不動産会社が確認すること、測量の専門家が確認すること、所有者同士で確認すべきことを分けながら進めることが、越境問題を必要以上に複雑にしないためにも重要です。

 

1-2. 屋根・雨樋・塀など「目に見える越境」

売買の現地確認で比較的発見しやすいのが、地上にある構造物などの越境です。古い戸建住宅が密集している場所では、建物と境界との距離が小さく、屋根の軒先や雨樋が境界付近まで伸びていることがあります。塀やフェンスについても、それ自体が境界上に設置されている場合、どちらの所有物なのかが分かりにくいケースがあります。境界標が確認できれば位置関係をある程度把握できる場合がありますが、境界標が見つからない、あるいは途中の一部しか確認できない場合には、見た目だけで結論を出さないことが必要です。

特に注意したいのが、「塀がある場所=境界」とは限らないことです。住宅地では、敷地を区切るブロック塀やフェンスを見て、そこがそのまま土地の境界だと思ってしまいがちです。しかし、塀がどちらか一方の敷地内に設置されている場合もあれば、境界線上に設けられている場合もあります。古い住宅では塀が施工された経緯を現在の所有者が把握していないこともあり、所有関係まで含めて資料を確認しなければ判断できない場合があります。

現地にある塀、フェンス、擁壁、屋根などの位置だけを見て土地の境界を判断せず、境界を示す資料や境界標と照合して確認することが必要です。これは購入者にとって特に意識しておきたいところで、内覧時には室内や日当たり、駐車場などに目が向きやすい一方、敷地の外周まで細かく見る方はそれほど多くありません。しかし戸建住宅や土地を購入する場合、建物内部だけでなく敷地を一周し、隣地との間にどのような構造物があるのかを見ることには大きな意味があります。

売主側も、「何十年もこの状態だから問題ない」と考えるだけでは十分ではありません。現在の隣人との間では問題になっていなくても、買主はその関係まで引き継げるとは限らないからです。売却前の現地調査で気になる箇所が見つかった場合には、契約直前まで放置するのではなく、早い段階で境界資料を確認する方が対応の選択肢を持ちやすくなります。撤去や改修が必要なのか、現状を確認したうえで将来の対応を取り決めるのかは、越境物の種類や程度、隣地所有者との協議によって異なります。

 

1-3. 地中にも越境が存在することがある

越境という言葉から屋根や塀を思い浮かべる方が多い一方、売買実務では地中の設備にも注意が必要です。例えば、自宅で使用している給水管や排水管などが隣地を経由しているケースや、反対に隣家の配管が売却対象地を通っているケースが考えられます。古い住宅地や過去に土地を分筆した場所では、現在の土地の形と設備を敷設した当時の土地利用が一致していないこともあります。そのため、建物や土地を見ただけでは分からない問題として、地下の配管経路などが売買時に確認事項となる場合があります。

例えば、もともと一つの土地に複数の建物があり、その後土地を分けて別々に所有するようになった場合、配管だけが従来の経路のまま残っていることがあります。現在使用できている間は問題が表面化しなくても、将来配管が破損して修理が必要になった際、他人の土地を掘削しなければならないとなれば話は変わります。また、建て替えに伴って配管を変更しようとした際に、初めて現在の経路が問題になることも考えられます。

地中の越境は目視では確認できないため、売買では配管図面、所有者からの聞き取り、現地設備の位置など複数の情報を組み合わせて確認する必要があります。ただし、古い建物では図面が残っていなかったり、行政や事業者が保有する資料だけでは敷地内の詳細な経路まで分からなかったりする場合もあります。そのようなときには、「確認できていないこと」そのものを整理して買主へ伝えるという考え方も必要になります。分からないことを推測で断定するより、確認できた範囲と確認できなかった範囲を分ける方が適切です。

購入者側も、中古住宅だからすべての地中設備が最新の図面どおりに施工されているとは限らないことを理解しておく必要があります。特に建築から長い年月が経過した住宅では、過去に設備更新や増改築が行われていることもあります。すべての中古住宅について詳細な地下調査が必要という意味ではありませんが、土地の分筆履歴、配管の引込み位置、隣地との関係などから疑問が生じた場合には、契約前に確認しておくことが望まれます。

 

1-4. 越境があることと、直ちに売買できないことは別問題

越境が見つかると、「この家は売れないのではないか」と心配する売主もいます。しかし、越境の存在だけを理由として、すべての不動産が売買できなくなるわけではありません。実際には、何が越境しているのか、程度はどのくらいなのか、解消できるのか、隣地所有者との間でどのような確認ができるのかなどによって対応は変わります。比較的小さな構造物の問題と、建物本体や重要な設備に関わる問題を同じように扱うべきではありません。

例えば、庭木の枝のように管理によって対応できるものと、建物の一部が境界を越えている可能性があるものでは、売買への影響が異なります。また、すぐに撤去できない事情があっても、隣地所有者との間で現状を確認し、将来建て替えや改修を行う際に解消することなどについて合意できる場合があります。一方、越境物の内容によっては、買主の建築計画や金融機関の判断などにも影響する可能性があるため、個別に確認しなければなりません。

越境物件では「越境があるから売れない」と考えるのではなく、「越境の内容を特定し、売買までに何を解消し、何を買主へ説明し、何を将来の対応として整理するのか」を考えることが実務の中心になります。この整理ができていれば、買主もリスクを理解したうえで購入を検討できます。反対に、越境の存在が曖昧なまま契約を進めると、契約後に新たな事実が判明し、条件調整が必要になる可能性があります。

不動産市場においても、越境があるという一つの事情だけで価格が機械的に決まるわけではありません。立地、土地面積、建物状態、需要など多くの要素とともに評価されます。ただし、解消に大きな費用が必要であったり、利用計画に影響したりする越境であれば、購入者が価格判断に反映させることは考えられます。したがって売主にとっては、問題を隠して高く売ろうとするのではなく、内容を明確にしたうえで市場に出すことが、結果として取引を安定させることにつながります。

 

 

 

 

 

第2章:なぜ不動産売買では「境界」を確認するのか

 

2-1. 登記簿の面積だけでは土地の現況まで分からない

土地を購入するとき、登記事項証明書には所在、地番、地目、地積などが記載されています。そのため、登記簿に土地面積が記載されていれば、現地でもその範囲が完全に分かっていると思う方がいるかもしれません。しかし、登記記録に地積が記載されていることと、現地の境界位置がすべて明確であることは同じではありません。土地によっては測量された時期が古く、現在の測量成果との間に差異が生じることもあります。

売買対象となる土地の「どこからどこまでを買うのか」を現地で確認するためには、境界標や測量図などが重要になります。境界標にはコンクリート杭、金属標、金属鋲などさまざまな形がありますが、すべての土地で分かりやすく残っているとは限りません。工事や道路整備などによって見つけにくくなっている場合もあれば、そもそも境界標が設置されていない箇所もあります。だからこそ、売却時には手元の測量資料と現況を照合することに意味があります。

登記簿に面積が記載されていることと、隣地との境界位置が現地ですべて明確になっていることは別の問題です。この違いを理解していないと、「登記されているのだから境界も問題ないはず」という誤解につながります。不動産会社が売却相談の初期段階で公図や地積測量図などを取得するのも、登記情報だけでなく土地の成り立ちや資料の有無を把握するためです。ただし、公図などもそれだけで個々の境界を最終的に確定するための資料とは限らないため、必要に応じて専門家による確認へ進みます。

購入者にとって境界確認が特に意味を持つのは、購入後の利用範囲を把握するためです。庭だと思っていた場所、駐車場として使われている場所、塀の内側などが必ずしも権利上の境界と完全に一致しているとは限りません。土地を購入して新築する場合には、建物配置や駐車計画にも関係するため、土地の形状や境界位置を早い段階で把握する必要があります。

 

2-2. 境界標・測量図・現地を一緒に見る理由

境界を確認するときには、一種類の資料だけではなく、複数の情報を照合して考えることが基本になります。例えば測量図が手元にあっても、その図面上の境界点に対応する境界標が現地で確認できるかを見る必要があります。逆に現地に杭があるからといって、それが売買対象地の境界標であると直ちに決めつけることもできません。図面、現地、登記関係資料、必要に応じて過去の境界確認資料などを組み合わせることで、土地の状況を把握していきます。

福岡市をはじめとする都市部では、土地価格が高い場所ほど限られた敷地を有効利用することが求められます。数十センチ程度の位置関係でも、建築計画や駐車スペース、塀の設置などに影響する場合があります。また、古くからの住宅地では、細い道路や不整形な土地もあり、道路境界と隣地境界の両方を確認しなければ土地利用を正確に把握できないケースもあります。郊外では敷地が広いから境界の問題が少ないとは限らず、境界点の数が多かったり、山林や農地に接していたりして確認が難しい土地もあります。

境界確認では「図面上ではどうなっているか」と「現地ではどうなっているか」を一致させて考えることが、越境を発見するための基本になります。例えば図面上の境界線と現地のブロック塀を比較することで、塀が境界上なのか敷地内なのかを検討できます。そのうえで屋根や雨樋、樹木、擁壁などの位置を見ることで、越境の可能性を確認していきます。

実務では、売主自身が昔の測量図や境界確認に関する書類を保管していることもあります。売却を考え始めた段階で、権利証や登記識別情報だけでなく、土地購入時にもらった図面、建築時の資料、過去に隣地と取り交わした書類などを探しておくと調査が進みやすくなります。資料がないこと自体で直ちに売却できなくなるわけではありませんが、何が残っているかを早めに把握しておくことで、その後の調査方法を検討しやすくなります。

 

2-3. 確定測量が必要になるケースと、その意味

土地の売買では、「確定測量」という言葉が出てくることがあります。一般的には、土地家屋調査士などの専門家が測量を行い、隣接地との境界について関係者の確認を得ながら境界を明らかにしていく手続きとして理解するとよいでしょう。ただし、どの不動産売買でも必ず同じ方法で確定測量を行わなければならないというものではありません。既存資料の状況、取引条件、土地の利用目的などによって必要性を判断します。

例えば、古い土地で境界標が複数見つからない場合や、既存の測量資料と現況の関係が分かりにくい場合には、売買前に測量を検討する意味が大きくなります。また、買主が購入後に建物を解体して新築する予定であれば、既存建物をそのまま利用する場合より土地の正確な形状が重要になることがあります。分筆を予定している場合なども、測量との関係を考える必要があります。どこまでの測量を誰の負担で行うかについては、売買条件として契約前に整理することが重要です。

確定測量の目的は単に土地の面積を測り直すことではなく、売買する土地と隣接地との境界を明確にし、買主が取得する範囲を確認できる状態にすることにあります。その過程で、それまで把握されていなかった越境物が見つかることもあります。これは測量をしたために問題が発生したのではなく、それまで見えていなかった状態が明確になったと考えるべきでしょう。

測量には一定の期間と費用が必要です。特に道路との境界確認を含む場合や、関係する隣接所有者が多い場合などは、売主が想定していたより時間を要することがあります。そのため、売買契約を結んでから初めて測量の必要性を検討するのではなく、売却相談の早い段階で資料と現況を確認しておく方が余裕を持って対応できます。売却を急いでいる場合ほど、境界に関する準備を後回しにしないことが結果的に時間の短縮につながる場合があります。

 

2-4. 境界が曖昧なまま売買すると何が問題になるのか

境界が曖昧な土地でも、取引条件や状況によって売買が行われることはあります。しかし、その場合には買主がどのような状態で土地を取得するのかを十分に理解していることが前提になります。境界について何も説明されず、「当然ここまでが土地だと思っていた」という状態で引渡しを受けることと、確認できていない境界があることを理解したうえで購入することでは意味が大きく異なります。売主と買主の認識をできる限りそろえておくことが重要です。

境界の曖昧さは、将来の売却にも影響する可能性があります。今回の買主が気にしなくても、その人が将来売却するときの購入希望者や金融機関が確認を求めることがあります。また、隣地が売却されて所有者が変わった際に、境界の確認が必要になることも考えられます。現在問題が起きていないことと、将来にわたって確認する必要がないことは同じではありません。

境界に不明な点を残したまま取引する場合には、「分からないままにする」のではなく、何が確認できていて、何が確認できていないのかを売主と買主の双方が理解しておくことが必要です。これは越境についても同様で、越境している可能性があるにもかかわらず断定できない場合には、その状況を曖昧な表現で隠すのではなく、調査した内容と限界を整理します。必要であれば専門家の調査を行うか、契約条件の中で取り扱いを明確にします。

価格との関係でも、境界の状態は無視できません。境界確定に費用や期間を要する土地と、境界関係が整理されている土地を購入者が同じように評価するとは限らないからです。ただし、境界未確定だから一定額を機械的に値下げするというものでもありません。立地や需要、土地の利用目的、測量に必要な対応などを踏まえ、市場でどのように受け止められるかを考えることになります。

 

 

 

 

 

第3章:越境が見つかったとき、売買実務ではどう対応するのか

 

3-1. まず「誰の何が越境しているのか」を特定する

越境の可能性が見つかった場合、最初に行うべきことは、すぐに撤去を求めることではありません。まず境界位置を確認し、越境している物が何なのか、その所有者は誰なのか、どちらからどちらへ越えているのかを整理します。屋根、雨樋、ブロック塀、擁壁、配管など、対象物によって対応方法が異なるからです。また、一見すると隣地所有者の物に見えても、共有物であったり、所有関係が明確でなかったりするケースもあります。

実務上想定される例として、売却予定の戸建住宅について現地確認をしたところ、敷地境界付近に隣家との間の古いブロック塀があり、どちらの所有物なのか売主も分からないというケースがあります。この段階で「隣の塀が越境している」と説明してしまうのは適切ではありません。まず測量資料などを確認し、境界と塀の位置関係、塀が設置された経緯、隣地所有者の認識などを調べる必要があります。その結果によって、越境問題なのか、境界上の構造物に関する問題なのか、あるいは特に問題のない状態なのかが変わります。

越境を発見したときには、見た目だけで責任の所在を決めるのではなく、「境界」「越境物」「所有者」という三つの関係を整理してから対応を考えることが基本です。この順番を飛ばして隣地へ撤去を求めてしまうと、かえって近隣関係を悪化させる可能性があります。不動産売却をきっかけに初めて問題が判明したのであれば、売主にとっても隣地所有者にとっても予想していなかった話であることがあります。

地域密着型の不動産取引では、法律上の権利関係だけでなく、長年続いてきた近隣関係への配慮も必要になります。ただし、「近所だから言いにくい」という理由で買主への説明まで曖昧にしてよいわけではありません。隣地との話し合いは丁寧に行いながら、売買に必要な事項については客観的な資料を基に整理するという二つの姿勢を両立させることが求められます。

 

3-2. 売却前に解消できる越境は解消を検討する

越境物の内容が明確になれば、次に考えるのは売却前に解消できるかどうかです。例えば自分の敷地にある樹木の枝が隣地側へ伸びている場合など、所有者側で管理できるものについては売却前に整理できる可能性があります。簡単な構造物についても、所有関係や境界が明確で、隣地との調整ができれば対応できる場合があります。一方、建物本体の一部や容易に移設できない設備については、直ちに撤去・改修することが現実的でないこともあります。

売主としては、「売却するのだから全部きれいに解決してから市場に出さなければならない」と考えるかもしれません。しかし、対応には費用がかかることがあり、建物を近い将来解体する買主であれば、売主が大きな費用をかけて改修することが必ずしも合理的とは限りません。逆に、買主が既存建物を長期間使用する予定であれば、越境状態が残ることへの評価は変わる可能性があります。誰が購入するか、どのように利用するかによっても対応の意味が異なります。

売却前に越境を解消するかどうかは、解消できるかという技術的な問題だけでなく、費用、売却時期、買主の利用方法、隣地との関係まで含めて判断する必要があります。例えば数年後に建て替えられる可能性の高い古家付き土地と、建物をそのまま使用する中古住宅では、同じ越境でも取引上の意味は異なります。土地として販売するのであれば、新しい建築計画への影響がより重視されることもあります。

売却価格についても、越境解消に必要な費用をそのまま販売価格から差し引けばよいとは限りません。購入者がどの程度問題として評価するか、利用上の支障があるか、市場で代替となる物件がどの程度あるかなどによって受け止め方が異なります。売主側は「小さな越境だから価格には関係ない」と決めつけず、反対に必要以上に値下げするのでもなく、具体的な状態を把握したうえで市場性を判断することが必要です。

 

3-3. すぐ解消できない場合には「将来どうするか」を整理する

建物の屋根や庇などが越境している場合、越境を解消するためだけに建物の一部を直ちに改修することが現実的でないケースがあります。また、隣地建物からの越境であれば、売主だけの判断で撤去することはできません。そのような場合には、現在の越境状態を確認したうえで、将来どのような時点で解消するのかについて隣地所有者と話し合う方法が検討されることがあります。一般に、建物の建て替えや大規模改修などの機会に越境を解消するという考え方が取られることもあります。

その際には、口頭で「将来直します」と確認するだけでは、時間が経過したときに内容が分からなくなる可能性があります。所有者が変われば、過去の口約束を新しい所有者が知らないという状況も起こり得ます。そのため、具体的な案件では専門家にも相談しながら、越境の状況や将来の対応について書面で確認しておくことが検討されます。どのような内容の書面が適切かは個別事情によるため、一律のひな型だけで処理するのではなく、対象となる越境物や売買条件に合わせて考える必要があります。

現在すぐに解消できない越境については、「そのままでよい」と放置するのではなく、現状を確認し、将来の解消方法をできる限り明確にしておくことが取引の安定につながります。売買によって所有者が変わるのであれば、その取り決めを買主が理解できるようにしておくことも重要です。売主と隣地所有者だけが知っている状態では、引渡し後の買主が適切に対応できません。

ただし、越境に関する書面があればどのような問題も解決するというわけではありません。買主の建築計画に重大な影響がある場合や、金融機関などから具体的な対応を求められる場合には、現状のままでは取引が難しいことも考えられます。書面は事実関係や将来の対応を整理する手段の一つであり、越境そのものの影響を消してしまうものではないという点は理解しておく必要があります。

 

3-4. 買主への説明は「小さい越境だから不要」と考えない

売主からすると、数センチ程度の雨樋や屋根の越境について「生活には何も影響していないのだから、わざわざ説明しなくてもよいのではないか」と感じることがあるかもしれません。しかし、買主が購入後に初めてその状態を知れば、越境の大きさそのものより、「なぜ契約前に知らされなかったのか」という点が問題になることがあります。不動産売買では、買主の購入判断に関係する事項について、売主と不動産会社が把握している情報を適切に整理して伝えることが重要です。

購入者が気にする程度も人によって異なります。既存住宅をそのまま使用する予定の人であれば影響が小さいと判断する一方、数年後に建て替えを予定している人にとっては、隣地との境界関係を重視することがあります。将来売却する可能性を考えて、境界や越境について慎重に確認する購入者もいます。売主側の感覚だけで「問題ではない」と決めてしまうと、買主の判断機会を奪うことになりかねません。

売買時の越境説明で重要なのは、売主側で問題の大小を決めて情報を省くことではなく、確認できている事実を買主へ伝え、その状態を踏まえて購入を判断できるようにすることです。越境の方向、対象物、確認方法、隣地との取り決めの有無などを整理しておけば、買主も具体的に検討できます。分からない事項が残るのであれば、その点も含めて説明し、必要に応じて追加調査を行います。

これは売主を守るという意味でも重要です。売却時に把握していた情報を適切に説明し、買主が理解したうえで契約することと、引渡し後に予期しない問題として発見されることでは、その後の対応が大きく異なります。越境を必要以上に怖い問題として扱う必要はありませんが、「小さいから説明しなくてよい」という扱いもしないことが、実務上の基本姿勢になります。

 

 

 

 

 

 

第4章:越境のある不動産を売る・買うときにどう判断するか

 

4-1. 売主は売却相談の段階で境界資料を集めておく

越境への対応を円滑にするために売主ができることの一つが、売却を決めた早い段階で土地関係の資料を確認しておくことです。売買契約の直前になって境界問題が見つかると、測量や隣地との確認に時間がかかり、予定していた引渡し時期に影響する可能性があります。反対に、査定や売却相談の段階で不明点が分かっていれば、販売活動と並行して必要な調査を進めることも検討できます。売却準備は室内の片付けや価格決定だけではありません。

手元に残っている資料としては、過去の測量図、境界確認に関する書類、土地購入時の資料、建築図面などが参考になることがあります。昔の所有者が測量を行っていても、現在の所有者がその資料の存在を忘れているケースもあります。また、相続した不動産では、相続人自身が土地の境界について詳しく知らないことも珍しくありません。親が保管していた書類の中に重要な資料が残っている場合もあるため、処分する前に確認しておく方がよいでしょう。

売主にとって境界確認は、買主から指摘されてから始めるものではなく、売却準備の一つとして早い段階から取り組むことで選択肢を増やせる調査です。越境がなければその確認自体が安心材料になりますし、越境が見つかったとしても時間があれば対応方法を検討できます。隣地との話し合い、測量、構造物の改修などは短期間で終わるとは限らないため、早めの確認には実務上のメリットがあります。

福岡県内でも、相続した実家や長期間所有してきた戸建住宅を売却する場面では、購入当時の資料が十分に整理されていないことがあります。特に建築から数十年が経過している住宅では、隣地所有者も世代交代している可能性があります。九州圏の郊外では敷地面積が大きく、擁壁や法面、農地・山林との境界など都市部とは異なる確認事項が出てくることもあります。地域や土地の形状に応じて調査の重点を変えることが必要です。

 

4-2. 買主は建物の中だけでなく「敷地の外周」を見る

中古戸建住宅を内覧する購入者の多くは、リビング、キッチン、浴室、収納、日当たりなど建物内部を中心に確認します。それ自体は当然ですが、土地も一緒に取得する戸建住宅では、建物の外側にも重要な情報があります。敷地と道路との関係、隣地との高低差、塀、擁壁、境界標、屋根や雨樋、樹木などを確認することで、物件資料だけでは分からない特徴を把握できます。土地を購入して建築する場合には、なおさら境界周辺の状況が重要になります。

現地では、可能な範囲で敷地の外周を見てみるとよいでしょう。ただし、境界標らしきものを発見しても、自分だけで境界を確定したと判断しないことが重要です。分からない部分があれば不動産会社へ質問し、どの資料を基に境界を確認しているのかを聞きます。測量図がある場合には、現地とどのように対応しているか説明を受けることで理解しやすくなります。

購入者が確認すべきなのは「越境が一つでもあれば買わない」ということではなく、その越境が購入後の利用、建て替え、維持管理、将来の売却にどのような影響を与える可能性があるかという点です。例えば購入後すぐに解体して新築する土地であれば、自分側の古い建物の越境は解体によって解消できる可能性があります。一方、隣地建物が越境している場合には、自分だけでは解消できないため、隣地との取り決めをより慎重に確認する必要があります。

また、土地を購入して注文住宅を建築する場合には、購入契約を急ぐ前に建築会社などへ計画を相談する方法もあります。越境だけでなく、セットバック、擁壁、高低差、建築基準法上の道路など、土地には建築計画へ影響するさまざまな条件があります。「土地面積が十分だから希望する家が建つ」と単純には判断せず、土地と建物を一体として検討する視点が必要です。

 

4-3. 越境は不動産価格にどう影響するのか

越境が見つかったとき、売主が気になるのは「価格が下がるのか」という点でしょう。しかし、越境がある不動産について一律に何%値下がりするという基準があるわけではありません。価格への影響は、越境物の種類、大きさ、解消可能性、土地利用への支障、隣地との取り決め、市場での需要などによって異なります。ほとんど利用に影響せず、将来の対応まで整理されている状態と、建築計画に大きく影響する状態を同じように評価することはできません。

不動産価格は、土地であれば立地、面積、形状、接道、高低差、用途地域など、建物であれば築年数、状態、間取りなど、多数の要素によって形成されます。さらに市場の需給も影響します。福岡都市圏のように住宅需要のある地域では、一定の問題があっても価格とのバランス次第で購入希望者が現れることがあります。一方、代替物件が多い市場では、購入者が境界関係の整理された物件を優先することも考えられます。

越境による価格への影響は、越境の存在そのものではなく、「その状態によって買主がどの程度の費用、制約、不確実性を引き受けることになるのか」を基準に考える必要があります。例えば売主負担で引渡しまでに解消できるのであれば、販売時に越境が確認されたとしても最終的な影響を抑えられる可能性があります。反対に、隣地側の建物が越境していて長期間解消できず、将来の利用に制約が残るのであれば、購入者はその事情を価格判断に反映させる可能性があります。

売主として避けたいのは、越境を知られると値段が下がるのではないかと考え、調査そのものをしないことです。調査しなかったから問題がなくなるわけではなく、契約後に判明すれば、より複雑な調整が必要になることがあります。価格を守るためにも、まず状態を明確にし、必要な対応を行ったうえで市場にどのように評価されるかを考えるという順番が適切です。

 

4-4. 境界確認は「隣人との争いを探す作業」ではない

境界や越境の話をすると、「隣人と揉めるのではないか」と不安になる方がいます。確かに、境界について所有者同士の認識が異なれば調整が必要になることはあります。しかし、境界確認の目的は隣地との争点を探すことではありません。むしろ、所有者が変わる売買の機会に現在の状態を確認し、将来のトラブルを防ぐために行うものと考えた方が実態に近いでしょう。

長年隣り合って暮らしてきた所有者同士であれば、「昔からここが境界だと思っている」「この塀は前の所有者同士で造ったと聞いている」といった情報を持っていることがあります。そうした話は状況を理解する参考になりますが、売買では必要に応じて客観的な資料とも照合します。口頭の記憶だけに頼るのでも、反対に長年の経緯を無視して図面だけを見るのでもなく、双方を確認しながら整理していくことが望まれます。

境界確認とは、隣地との関係を悪化させるための作業ではなく、現在の土地の範囲と利用状況を共有し、次の所有者へできる限り明確な状態で引き継ぐための作業です。売主にとっては、自分が所有してきた不動産を整理して引き渡す意味があります。買主にとっては、自分が何を取得するのかを理解する意味があります。そして隣地所有者にとっても、新しい所有者との間で境界認識が食い違うリスクを減らすことにつながります。

不動産市場では、建物のデザインや設備、駅からの距離など目に見えやすい条件が注目されます。しかし、長く安心して所有するという視点では、境界や道路、権利関係など、広告写真には写りにくい部分も同じように重要です。特に土地や戸建住宅は、建物だけを買うのではなく、その土地と周囲との関係まで含めて取得します。売主と買主の双方がこの点を理解しておけば、越境が見つかった場合にも「問題物件だ」と感情的に判断するのではなく、何を確認し、どのように整理すればよいのかという実務的な話へ進むことができます。

 

 

 

 

 

まとめ

越境とは、土地や建物を所有しているだけでは普段ほとんど意識しない問題です。屋根の軒先や雨樋が少し境界を越えていても、長年生活する中で何も問題が起きなければ、所有者自身がその事実を知らないこともあります。ブロック塀についても、そこが境界だと思って何十年も暮らしてきたものの、売却をきっかけに資料を確認したところ、実際の境界との位置関係を改めて確認する必要が出てくる場合があります。地中の配管のように、現地を見ただけでは存在自体を確認しにくいものもあります。

だからこそ、不動産売買では「越境があるか」という結果だけを見るのではなく、その前提となる境界を確認することが重要になります。登記事項証明書に土地面積が記載されていること、現地にブロック塀があること、境界が確定していることは、それぞれ別の話です。境界標、測量図、登記関係資料、現地の構造物などを照合し、必要であれば土地家屋調査士などの専門家による測量を行うことで、土地の状態を整理していきます。

越境について最も避けたいのは、越境が存在することそのものではなく、状態が分からないまま売買を進め、所有権が移った後に初めて問題が表面化することです。

売主側では、売却を考え始めた段階で境界関係の資料を探し、現地を確認しておくことが一つの準備になります。越境の可能性が見つかったとしても、早い段階であれば測量を行う、隣地所有者へ確認する、解消できるものを整理する、将来の対応を書面で確認するなど、状況に応じた方法を検討できます。売買契約の直前に初めて問題が分かるよりも、時間的な余裕を持って対応できる可能性があります。

買主側では、越境があるという説明を受けたからといって、それだけで購入対象から外す必要はありません。何がどちら側へ越境しているのか、現在解消できるのか、将来どのように取り扱う予定なのか、自分の利用計画に影響するのかを確認します。中古住宅としてそのまま使用するのか、将来建て替えるのか、土地として購入して新築するのかによっても評価は変わります。隣地側からの越境であれば自分だけでは解消できないため、取り決めの内容についても確認しておきたいところです。

価格についても、越境物が一つあるから自動的に土地価格が大幅に下がるわけではありません。購入者が負担する費用や利用上の制約、不確実性がどの程度残るのかを見ながら、市場全体の中で評価していく必要があります。福岡市や福岡都市圏のように土地利用の密度が高い地域では、わずかな位置関係が建築計画に影響する場合があります。一方、九州圏の郊外では、広い土地、擁壁、法面、農地や山林との隣接など、都市部とは異なる境界確認が必要になるケースもあり、土地ごとに見るべきところは異なります。

また、境界確認を「隣地と揉めないために触れない方がよい問題」と考える必要もありません。現在の所有者同士では良好な関係が築かれていても、売買によって所有者は変わります。現在の関係に頼るのではなく、土地の状態を客観的に確認して次の所有者へ引き継ぐことは、売主、買主だけでなく隣地所有者にとっても将来の認識違いを防ぐ意味があります。必要な確認を丁寧に行うことと、近隣関係へ配慮することは両立できます。

 

不動産売買における境界確認の本当の目的は、問題のない土地だけを選別することではなく、売買する土地がどの範囲にあり、隣地とどのような関係にあるのかを双方が理解したうえで取引することにあります。

住宅を購入するときには室内の状態や間取り、価格、立地などに目が向きます。売却するときには査定価格や販売方法、内覧への準備などが気になります。しかし、土地や戸建住宅の取引では、その不動産が周囲の土地とどのようにつながっているかという視点も欠かせません。境界、越境、道路、擁壁、配管などは普段の生活では目立たないものの、所有者が変わる場面だからこそ確認する意味があります。

越境が見つかったときにも、必要以上に不安になるのではなく、まず事実を確認することから始まります。境界はどこなのか、何が越境しているのか、誰の所有物なのか、解消できるのか、できない場合にはどのような対応が考えられるのか。そして、その状態を買主が理解したうえで購入を判断できるようにすることが、不動産売買における実務的な対応です。見えない問題をなくすことだけを目指すのではなく、「確認できる状態にする」という考え方を持つことが、売主と買主の双方にとって納得できる不動産取引につながっていきます。


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