共働き世帯の増加で「駅近」の価値はどう変わった?これからの住まい選び
2026/08/25
住宅を購入するとき、「駅から何分か」という条件は昔から重視されてきました。通勤や通学の利便性を考えれば、駅に近い住宅ほど便利であり、売却するときにも購入希望者を見つけやすいという考え方には一定の合理性があります。特にマンションでは駅徒歩分数が価格形成に与える影響も比較的大きく、「駅近」という言葉そのものが物件の特徴として使われてきました。しかし、私たちの暮らし方を振り返ると、駅までの距離だけで住宅の便利さを説明することは以前より難しくなっています。
その背景の一つに、共働き世帯の増加があります。夫婦のどちらか一人が毎日同じ勤務先へ通勤し、もう一人が主に自宅周辺で生活するという家庭だけではなく、夫婦それぞれに勤務先があり、子どもの送迎、買い物、家事、通院などを分担しながら一日の予定を組み立てる家庭が増えています。さらに、働き方によっては在宅勤務や出社を組み合わせることもあり、「毎朝駅へ向かい、夕方に駅から帰宅する」という一つの動線だけでは、その家族にとっての利便性を評価できなくなっています。
例えば、駅まで徒歩5分の住宅であっても、保育園まで遠く、日常の買い物に車が必要で、駐車場が使いにくければ、共働き家庭にとって必ずしも最も暮らしやすい住宅とは限りません。一方、駅から徒歩15分程度離れていても、保育施設、学校、スーパー、医療機関が生活圏にまとまり、車で主要道路へ出やすく、夫婦それぞれの通勤にも対応しやすい住宅であれば、日々の負担は小さくなる可能性があります。住宅選びにおける「近い」という言葉の対象が、駅だけではなくなってきたと考えることもできるでしょう。
これからの住まい選びでは、駅までの距離そのものよりも、「家族全員の一日の移動をどれだけ無理なく組み立てられるか」という視点から立地を考えることが、これまで以上に重要になっています。
これは購入者だけの話ではありません。住宅を売却する側にとっても、物件の価値を「駅徒歩○分」だけで説明するのではなく、その地域でどのような生活ができるのかを理解することが必要になります。福岡市内の地下鉄・JR・西鉄沿線と、福岡都市圏の近郊住宅地、さらに九州各県の車利用を前提とした地域では、同じ「駅徒歩15分」でも意味は異なります。駅近の価値がなくなったのではなく、駅近という価値の中身と、それ以外に評価される条件が変化しているのです。
そこで今回は、共働き世帯という視点から、なぜ駅近住宅が支持されてきたのか、現在の生活では何が変わっているのか、駅から少し離れた住宅にはどのような可能性があるのか、そして購入・売却の際に立地をどのように評価すればよいのかを考えていきます。住宅の価値を一つの数字だけで判断せず、実際の暮らしと不動産市場の両方から見ていくことで、自分たちに合った「便利な場所」の意味も少し違って見えてくるはずです。

第1章:「駅近」が住宅選びで重視されてきた理由
1-1. 駅までの距離は今でも分かりやすい立地評価の一つ
不動産広告を見ると、「駅徒歩5分」「駅徒歩10分」といった表示が目に入ります。住宅の広さや築年数などと異なり、駅までの距離はその地域をよく知らない人でも比較しやすいため、物件を探す際の条件として非常に使いやすい指標です。同じような価格帯、広さ、築年数の住宅が複数あれば、駅に近い方を選びたいと考える人がいるのは自然なことでしょう。毎日の通勤や通学を考えれば、片道10分の違いでも一年単位では大きな時間差になります。
駅に近い住宅は、日々の移動だけでなく、天候の影響を受けにくいという利点もあります。雨の日や真夏、真冬に長時間歩く必要がなく、帰宅時間が遅くなった場合にも移動距離を短くできます。高齢になって自動車を運転しなくなったときでも、鉄道を利用しやすいことは生活上の安心につながります。このように駅近には、単なる通勤時間の短縮だけでは説明できない複数の利便性があります。
共働き世帯が増え、生活様式が変化しても、駅への近さが住宅の利便性を判断する有力な条件であること自体は変わっていません。
特に夫婦の双方が鉄道で通勤する家庭では、駅近の価値はむしろ高く感じられることがあります。夫婦それぞれが毎日往復するのであれば、駅までの移動時間短縮の効果は一人暮らし以上に大きくなるからです。そのため、「共働きが増えたから駅近の価値が下がった」と単純に考えるのは適切ではありません。変化しているのは駅近の価値そのものというより、駅近だけでは暮らしやすさを判断できなくなっているという点です。
1-2. 駅近は売却時にも購入希望者の条件に入りやすい
住宅を購入するときには、自分たちが暮らしやすいかどうかを中心に考えます。しかし不動産は、将来売却する可能性のある資産でもあります。転勤、家族構成の変化、住み替え、相続などによって、購入時には想定していなかった売却が必要になることもあります。そのとき、購入希望者がどの程度集まりやすいかという視点から見ると、駅への距離は依然として無視できません。
不動産検索サイトでは、購入希望者が駅徒歩分数を条件として物件を絞り込むことがあります。例えば駅徒歩10分以内を希望条件に設定すれば、それを超える住宅は、物件そのものに魅力があっても最初の検索結果に表示されない可能性があります。これは駅徒歩11分の住宅が駅徒歩10分の住宅より必ず劣るという意味ではなく、購入者が物件を探す入口として数字を利用しているということです。売却実務では、この「検索条件に入りやすいか」という点も物件の市場性を考える材料になります。
駅近住宅の強みの一つは、現在の所有者にとって便利であるだけでなく、将来売却するときにも幅広い購入希望者の検討対象に入りやすいことです。
ただし、駅に近ければ必ず高く売れるわけではありません。同じ駅徒歩5分でも、土地の形状、道路との関係、築年数、建物状態、日当たり、騒音、周辺環境などによって評価は変わります。マンションであれば階数、向き、管理状態、修繕状況、管理費・修繕積立金なども価格に関係します。駅徒歩分数は価格を形成する一要素であり、それだけを切り取って資産価値を判断することはできません。
1-3. 福岡では鉄道と自動車の両方を使う暮らしが珍しくない
福岡県内の住宅事情を考えるときには、東京や大阪の中心部と同じ感覚で駅距離だけを評価しない方が実態に合っています。福岡市内でも地下鉄沿線、西鉄沿線、JR沿線で生活動線は異なりますし、市境を越えて福岡都市圏まで広げれば、自動車を日常的に利用する家庭も多くなります。夫婦の一方が鉄道通勤、もう一方が自動車通勤という家庭も考えられ、住宅に求める交通条件は一つではありません。
例えば福岡市中心部へ通勤する人にとっては、地下鉄やJR、西鉄の駅へ歩いて行けることに大きな価値があります。一方、勤務先が郊外の事業所や工業団地、医療施設などの場合には、駅への近さより幹線道路や高速道路のインターチェンジへのアクセスを重視することがあります。共働きで勤務先の方向が異なれば、「夫は駅を利用しやすく、妻は車で主要道路へ出やすい」といった二つの条件を満たす場所が選ばれることもあります。
福岡の住宅立地を考える場合、駅へのアクセスと自動車でのアクセスを二者択一にせず、家族が実際にどの交通手段を使うのかを基準として評価する必要があります。
この特徴は福岡県だけに限りません。九州圏では県庁所在地の中心部を除けば、自動車が生活の主要な移動手段となっている地域が多くあります。そのような市場では、駅徒歩分数よりも駐車台数、道路幅員、主要道路への接続、スーパーや学校への距離などが住宅選びで強く意識されることがあります。全国共通の「駅近=便利」という考え方を基本にしながら、地域ごとの交通事情を重ねて評価することが必要です。
1-4. 駅近にも価格とのバランスがある
駅に近い住宅には多くの利点がありますが、その利便性は通常、価格にも反映されます。同じ地域で同程度の住宅を比較した場合、駅に近い物件の方が高い価格で取引される傾向が見られることがあります。そのため購入者は、「駅近が便利か」という問いだけでなく、「駅近のために支払う価格差が自分たちの生活に見合っているか」を考える必要があります。
例えば駅徒歩5分の住宅と徒歩15分の住宅で価格差がある場合、毎日の通勤時間を優先する家庭なら前者に価値を感じるでしょう。一方、在宅勤務が多く、出社が週に数回程度であれば、駅まで10分余計に歩くことより、住宅面積や部屋数、駐車場、庭などへ予算を振り分けたいと考えることもあります。同じ1,000万円の差でも、家族によってその意味は全く異なります。
住宅購入では「駅に近い方が良い」という一般論ではなく、駅への近さに対してどこまで予算を配分する価値があるのかを、自分たちの生活から逆算することが必要です。
ここで住宅価格だけを見るのではなく、購入後の生活費まで考えることも一つの方法です。駅から離れたことで自動車がもう一台必要になるなら、車両代、保険、税金、燃料、駐車場などの負担が増える可能性があります。反対に駅近住宅で駐車場代が高く、自動車を手放せるのであれば、住宅価格が高くても家計全体では差が小さくなることがあります。住宅の立地価値は購入価格だけでなく、その場所で生活するために必要な費用まで含めて考えると、より現実的に比較できます。
第2章:共働き世帯の増加で「便利な場所」の意味が変わっている
2-1. 一人の通勤時間より「家族全体の移動時間」を考える
かつて住宅選びでは、世帯主の勤務先への通勤時間が立地選択の中心になることがありました。しかし共働き世帯では、夫婦それぞれに勤務先があります。勤務先が同じ方向とは限らず、一方は福岡市中心部、もう一方は郊外ということもあります。さらに子どもがいれば、保育園や学校、習い事への移動が加わり、一日の生活動線は複雑になります。
例えば夫の通勤時間を10分短縮できる住宅でも、妻の通勤が20分長くなり、保育園への送迎も遠くなるのであれば、家庭全体として便利になったとは言い切れません。朝は限られた時間の中で、身支度、朝食、子どもの準備、送迎、通勤を行う必要があります。夕方も保育園への迎え、買い物、夕食の準備などが続くため、一つひとつの移動距離が生活の負担に影響します。
共働き世帯の立地選びでは、一人の「通勤時間」ではなく、家族全員が一日に使う「移動時間の総量」を考えると、暮らしやすい場所が見えやすくなります。
この考え方をすると、駅徒歩分数だけでは比較できない住宅が候補に入ってきます。駅から多少離れていても保育園とスーパーが帰宅経路上にあり、車で迎えに行ってそのまま買い物をして帰宅できる住宅なら、一日の動線は効率的です。反対に駅前であっても、保育園や日常の買い物先が反対方向にあれば、毎日の移動は意外に複雑になります。地図上の距離だけではなく、一日の行動を時間順に並べて考えることがポイントになります。
2-2. 保育園・学校・買い物環境が立地価値に与える影響
子育て中の共働き家庭にとって、保育施設への送迎は生活動線を考えるうえで大きな要素になります。住宅と駅が近くても、保育施設が離れていれば、朝に一度駅と反対方向へ移動してから通勤することになるかもしれません。小学校へ進学すれば通学路の安全性や距離も気になりますし、学童保育などを利用する家庭では、その位置も日々の暮らしに関係します。住宅購入時には数年間だけを見るのではなく、子どもの成長による生活の変化も考えておきたいところです。
買い物環境についても同様です。スーパーまで500メートルという数字だけでなく、仕事から帰る途中に立ち寄れるか、駐車場が使いやすいか、営業時間が生活に合っているかなどによって利便性は変わります。病院やクリニックについても、子どもが急に体調を崩した場合を考えると、生活圏内に利用しやすい医療機関があることに価値を感じる家庭があります。駅からの距離では測れない生活利便性が、住宅選びでは確実に存在します。
共働き家庭にとっての「駅近」は、駅だけを一点で見るのではなく、保育、教育、買い物、医療など日常生活に必要な場所が無理のない範囲にまとまっているかまで含めて考える方が実態に合っています。
売却実務でも、この視点は物件の伝え方に関係します。駅から距離がある住宅を「駅徒歩○分」という数字だけで評価すれば、駅近住宅に比べて弱く見えるかもしれません。しかし周辺に生活施設がまとまり、子育て世帯が生活しやすい環境であれば、それは購入判断に関係する情報です。ただし「子育てに最適」などと一方的に断定するのではなく、施設までの距離や交通手段など、購入者が自分で判断できる情報を整理して伝えることが望まれます。
2-3. 在宅勤務が「毎日駅を使う」という前提を変えた
働き方の変化も住宅選びに影響しています。すべての職種で在宅勤務ができるわけではありませんが、出社と在宅勤務を組み合わせる働き方が可能な人にとっては、駅までの距離に対する考え方が変わることがあります。毎日往復するのであれば駅徒歩5分と15分の差を強く感じても、週に数回の利用であれば、その差より住宅内部の環境を優先する人もいるでしょう。
在宅勤務では、仕事をする場所そのものが住宅の中に必要になります。夫婦とも在宅勤務をする日がある家庭では、同じLDKで二人がオンライン会議をすることが難しく、個室やワークスペースを求めることがあります。駅近で面積を抑えた住宅より、駅から少し離れても一部屋多い住宅を選ぶという判断が生まれるのは、このような生活の変化と関係しています。
出社頻度が下がるほど、住宅選びでは「駅まで何分か」と同時に、「自宅にいる時間をどれだけ快適に過ごせるか」という価値が大きくなります。
ただし、現在の働き方だけを前提に住宅を決めることには注意が必要です。勤務先の方針が変わって出社日数が増える可能性もありますし、転職によって通勤先が変わることもあります。住宅は長期間所有することが多いため、「現在は在宅勤務だから駅距離は全く気にしない」と極端に考えるより、働き方が変化した場合にも対応できる立地かを確認しておく方が安心です。現在の便利さと将来の選択肢を両方残すという考え方が現実的でしょう。
2-4. 「時間を買う」という駅近の価値はむしろ強くなる場合もある
共働き世帯が増えたことで駅近の価値が相対的に薄れる面がある一方、反対の現象もあります。夫婦とも仕事をしながら家事や育児を行う家庭では、自由に使える時間が限られます。そのため住宅費をある程度増やしてでも通勤時間を短縮し、家族で過ごす時間や家事に使える時間を確保したいという考え方も成り立ちます。駅近住宅は「移動時間を短くするための住宅」と見ることもできます。
仮に駅徒歩20分から5分へ変われば、単純計算では片道15分、往復30分の差があります。毎日同じ条件になるわけではありませんが、鉄道通勤を継続する家庭にとって、この時間差をどのように評価するかは住宅購入の重要な判断材料になります。さらに夫婦双方が駅を利用するのであれば、世帯全体で節約できる移動時間は大きくなります。価格だけを比較すると高く見える駅近住宅でも、時間という別の尺度で見ると評価が変わります。
共働き時代の駅近住宅は、単に交通が便利な住宅ではなく、限られた生活時間を確保するために費用を支払う選択肢として捉えることもできます。
だからこそ、駅近か郊外かという二者択一で考える必要はありません。鉄道通勤が中心の家庭、在宅勤務が中心の家庭、自動車通勤の家庭、夫婦で交通手段が異なる家庭では答えが違います。住宅選びで重要なのは、一般的に価値が高い条件をすべて揃えることではなく、自分たちの時間の使い方に対して何へ優先的に予算を配分するかを決めることです。
第3章:「駅から少し離れた住宅」の価値をどう考えるか
3-1. 駅距離と引き換えに得られる住宅の広さ
住宅購入には予算があります。同じ予算であれば、利便性の高い場所ほど土地面積や専有面積を抑えなければならないことがあります。駅から少し離れることで、より広い土地、部屋数の多い戸建住宅、専有面積の広いマンションなどを検討できる場合があります。この「距離と広さの交換関係」は、共働き世帯の住宅選びを考えるうえで重要です。
子どもが小さいうちは、多少コンパクトな住宅でも十分と感じるかもしれません。しかし成長すると、それぞれの個室や収納が必要になり、生活用品も増えていきます。在宅勤務をする家庭なら仕事用のスペースも必要です。駅に近いことを優先して住宅面積を抑えた結果、数年後に手狭になって住み替えるのであれば、最初から少し範囲を広げて探す選択肢も考えられます。
駅から離れることによって生まれる価格差を「不便になる代償」とだけ考えず、住宅の広さや部屋数、駐車場など別の価値へ振り替えられる予算として考える視点も必要です。
一方で、広ければ暮らしやすいとも限りません。住宅面積が増えれば掃除や維持管理の範囲も広がり、戸建住宅では将来の外壁・屋根などの修繕費にも関係します。広い郊外住宅を選んだ結果、自動車を二台所有する必要が生じれば、家計全体の負担が増えることもあります。駅距離と広さを比較するときには、購入時の価格だけでなく、暮らし始めてからの負担まで考えることが必要です。
3-2. 福岡都市圏では「駅徒歩圏外=不便」とは限らない
福岡都市圏には、鉄道駅から一定の距離がありながら住宅地として形成されている地域が数多くあります。バス路線が利用しやすい場所、自動車で幹線道路へ出やすい場所、生活施設が住宅地周辺にまとまっている場所など、利便性の形はさまざまです。そのため駅徒歩分数だけを見て「不便な住宅」と判断すると、その地域の実際の生活環境を正しく評価できないことがあります。
実務上想定される例として、福岡都市圏で共働き夫婦が中古戸建住宅を比較する場面を考えてみます。一方は駅に近いものの敷地がコンパクトで駐車場が一台、もう一方は駅から距離があるものの二台駐車でき、保育施設やスーパーへ車で移動しやすい住宅だったとします。夫婦とも自動車を日常的に利用する家庭であれば、後者の方が実際の生活には合っている可能性があります。反対に二人とも鉄道通勤なら、住宅の広さを多少抑えても前者を選ぶ合理性があります。
地域の利便性は、駅までの距離という全国共通の指標と、その地域で実際に使われている交通手段や生活施設の配置を組み合わせて評価する必要があります。
これは九州圏の住宅市場を見ると、さらに分かりやすくなります。自動車移動が生活の中心となる地域では、駅徒歩圏という条件が住宅選びの最優先事項にならないことがあります。道路の走りやすさ、駐車場の台数、職場への自動車での所要時間、買い物施設へのアクセスなどが立地評価の中心になることもあります。地域によって住宅の価値を形成する条件の重みが違うということを理解しておく必要があります。
3-3. 駅から離れた住宅を売るときは「生活動線」を伝える
売却する住宅が駅から離れている場合、売主は「駅から遠いから売れないのではないか」と心配することがあります。確かに鉄道利用を最優先する購入者からは検討されにくくなる可能性があります。しかし、その住宅を検討する人全員が同じ生活をするわけではありません。駅距離という弱点だけを見るのではなく、その場所でどのような暮らしができるのかを客観的に整理することが売却実務では必要です。
例えば駐車場が二台確保できる、主要道路へ出やすい、スーパーが生活動線上にある、学校まで歩きやすい、バス停を利用できるといった条件は、購入者によっては重要な判断材料になります。また、駅近住宅より土地面積や建物面積を確保しやすいのであれば、在宅勤務用の部屋、収納、庭などを求める購入者との相性も考えられます。こうした情報は駅距離を隠すためのものではなく、住宅を総合的に評価するために必要な情報です。
駅から距離のある住宅を売却するときには、駅近物件と同じ土俵で距離だけを競うのではなく、その住宅を選ぶことで実現できる生活を具体的かつ客観的に伝えることが重要です。
ただし、売却価格は生活の魅力だけで自由に決められるものではありません。周辺で実際に取引されている住宅、現在販売されている競合物件、土地面積、築年数、建物状態などを確認し、市場の中で価格を考える必要があります。「駅から遠いが広い」という特徴も、価格とのバランスが取れて初めて購入者から評価されます。売主の感じる暮らしやすさと、市場が評価する価格を分けて考えることが必要です。
3-4. 将来売却する可能性まで考えると「代替できない特徴」が重要になる
購入時には永住するつもりでも、将来の事情は分かりません。そのため駅から離れた住宅を購入するときには、「自分たちには便利だから」という理由だけでなく、将来ほかの人が購入するとしたら何を評価するかという視点を少し持っておくとよいでしょう。これは投資目的で住宅を買うという意味ではなく、住宅という大きな資産の出口を考えておくということです。
駅近という特徴は、多くの人が理解しやすく代替しにくい価値です。一方、駅から離れた住宅でも、土地が広い、二方向に道路がある、平坦地である、駐車場を複数確保できる、生活施設が集まっているなど、ほかの物件との差を生む条件があります。反対に駅から遠く、道路条件も弱く、生活施設にも距離があり、その代わりとなる特徴も少ない住宅では、将来の売却時に購入者層が限定される可能性があります。
駅から離れた住宅ほど、「駅近ではない代わりに、この住宅には何があるのか」を購入前に確認しておくことが、将来の売却まで考えた住まい選びにつながります。
価格も重要です。駅近住宅より取得価格を抑えられること自体が一つのメリットであり、その価格差によって住宅ローンの負担を軽くしたり、教育費や将来の貯蓄に資金を残したりすることができます。立地条件を一つ妥協することによって家計全体に余裕が生まれるなら、それも住宅選びとして合理的です。資産性だけを追い求めるのでも、現在の暮らしだけを見るのでもなく、購入価格、生活、将来売却の三つをバランスよく考えることが望まれます。

第4章:これからの時代に「駅近」をどう判断すればよいのか
4-1. 夫婦それぞれの一週間を書き出してみる
住宅を購入するときには、物件を見る前に自分たちの生活を整理してみることが役立ちます。特に共働き世帯では、夫婦それぞれが一週間の中でどこへ何回移動しているのかを書き出すと、必要な立地条件が見えやすくなります。勤務先、駅、保育園、学校、スーパー、病院、実家など、日常的に訪れる場所を考えてみると、駅が生活の中心なのか、それとも複数ある移動先の一つなのかが分かります。
例えば夫が週5日鉄道通勤、妻が週5日自動車通勤で、保育園の送迎を交代で行う家庭なら、駅徒歩分数だけを最優先にするより、駅と道路の双方へアクセスできる場所を探す方が合理的かもしれません。夫婦とも週5日鉄道通勤なら駅近の優先順位は上がります。夫婦とも在宅勤務が多いなら、駅距離を多少広げて住宅内部の仕事環境を優先する方法もあります。
住宅の立地条件は「人気がある条件」から決めるのではなく、自分たちが一週間に何度その条件を利用するのかを確認して優先順位を付けると判断しやすくなります。
この方法には、住宅への希望条件を整理できる利点もあります。「駅徒歩10分以内」「4LDK」「駐車場二台」「買い物便利」「予算内」と条件を増やしていけば、すべてを満たす物件が見つからないこともあります。そのとき何を譲るかを決めるには、自分たちの生活に与える影響を比較する必要があります。駅徒歩15分になった場合の負担と、部屋が一つ少なくなった場合の負担を比べることで、家族ごとの答えが見えてきます。
4-2. 現在だけでなく10年後の生活も想像する
住宅購入では、現在の生活に合うことはもちろん重要ですが、住宅は長期間所有する可能性があります。子どもがいる家庭では、保育園への送迎が必要な時期、小学校へ通う時期、中学校・高校へ進学する時期で移動の形が変わります。夫婦の働き方も変わるかもしれません。現在は自動車中心でも、高齢になれば鉄道やバスを利用しやすいことに価値を感じる可能性があります。
駅近住宅には、この変化へ対応しやすいという特徴があります。子どもが成長して自分で電車通学するようになれば駅への近さが便利になりますし、自動車を使わなくなった後にも公共交通を利用できます。一方、駅から離れた住宅でも、バス交通、徒歩圏の生活施設、平坦な道路などが整っていれば、年齢を重ねても暮らしやすい可能性があります。現在の交通手段だけで将来を決めつけないことがポイントです。
住宅購入では「今の自分たちに便利か」に加えて、「家族構成や働き方が変わっても暮らし続けられるか」という時間軸を持って立地を評価する必要があります。
ただし、20年後や30年後を完全に予測することはできません。そのため将来を細かく決めるのではなく、選択肢が残る住宅かという見方をするとよいでしょう。鉄道、自動車、バスなど複数の交通手段が使える、部屋の使い方を変更できる、売却時にも一定の需要が期待できるといった条件は、生活の変化に対応する余地につながります。
4-3. 売却価格では「駅徒歩○分」だけを査定しているわけではない
住宅を売却するとき、不動産会社が査定価格を検討する際にも駅距離は確認します。しかし、駅から何分だからいくらという単純な計算だけで価格が決まるわけではありません。周辺の成約事例や販売事例、土地面積、建物面積、築年数、道路条件、方位、建物状態などを確認し、対象物件と比較しながら価格を考えます。地域によって駅距離が価格へ与える影響の大きさも異なります。
駅前に商業施設が集まり鉄道利用者が多い地域と、自動車利用を前提として住宅地が形成されている地域では、同じ駅徒歩15分でも市場での受け止め方は違います。さらに駅自体の利便性も重要です。利用できる路線、主要エリアへの所要時間、乗り換えなどによって、単純な徒歩分数だけでは比較できません。不動産会社が査定する際には、「駅から何分か」とともに「その駅や地域が住宅市場でどのように利用されているか」を見る必要があります。
不動産価格における駅距離の評価は全国一律ではなく、その地域の購入者が実際にどのような交通手段と生活環境を求めているかによって重みが変わります。
売主側も、自宅の駅距離だけを見て価格を判断しない方がよいでしょう。「駅徒歩5分だから高く売れるはず」と考えていても、建物状態や道路条件などによって評価が変わることがあります。反対に駅から距離がある住宅でも、土地の広さや駐車条件、周辺環境などが評価される場合があります。査定価格を見るときには金額だけではなく、どの条件がプラス・マイナスとして評価されているのかを確認すると、その住宅の市場での位置付けを理解しやすくなります。
4-4. 「駅近かどうか」ではなく、自分たちにとっての立地価値を決める
住宅選びでは、条件に順位を付けることが避けられません。予算に上限がなければ駅に近く、広く、新しく、生活施設も充実した住宅を選べるかもしれませんが、実際には何かを優先し、何かを調整しながら探すことになります。そこで重要になるのが、一般的な人気条件と自分たちの必要条件を分けることです。
駅近は一般的に評価されやすく、将来の売却という意味でも一定の強みがあります。そのため予算内で無理なく選べるのであれば、有力な条件であることに変わりありません。しかし駅近を優先するために住宅ローン負担が大きくなりすぎたり、必要な部屋数を確保できなかったり、自動車生活に適さない住宅を選んだりすれば、本来の目的である暮らしやすさから離れてしまいます。
これからの住宅選びで必要なのは「駅近に価値があるか」という答えを探すことではなく、自分たちの生活の中で駅近にどれだけの価値があるのかを判断することです。
共働き世帯が増えたことによって、住宅の価値基準が一つ増えたというより、家族ごとの差が大きくなったと考えた方がよいでしょう。鉄道通勤をする夫婦には駅近が非常に大きな価値を持ち、車通勤と在宅勤務を組み合わせる夫婦には別の立地条件が重要になります。住宅市場の評価を理解しながら、自分たちの生活と照らし合わせることによって、「人気の住宅」ではなく「長く納得して暮らせる住宅」を選びやすくなります。

まとめ
「駅近」という条件は、これから価値がなくなるものではありません。鉄道を日常的に利用する人にとって駅への近さは明確な利便性であり、通勤や通学にかかる時間を短縮できます。雨の日や暑い日の移動負担を軽減でき、将来自動車を利用しなくなった場合にも公共交通へアクセスしやすいという利点があります。さらに売却時には駅徒歩分数を条件として住宅を探す購入希望者もいるため、市場性という面でも無視できない条件です。
一方で、共働き世帯の生活を駅への距離だけで評価することは難しくなっています。夫婦それぞれに勤務先があり、子どもの送迎、買い物、通院など複数の移動が毎日の生活に組み込まれている家庭では、一人の通勤時間だけを短縮しても家庭全体の負担が減るとは限りません。在宅勤務を取り入れる人であれば、自宅で過ごす時間が増えることで、駅への距離より住宅面積や仕事用スペースを優先することもあります。
共働き時代の住まい選びでは、「駅まで何分か」という一つの数字から、「家族全員が一日をどのように移動するのか」という生活全体へ視点を広げることが必要です。
福岡県や九州圏では、この考え方は特に現実的です。福岡市中心部のように鉄道交通の利便性が高い場所がある一方、福岡都市圏の近郊住宅地や九州各県には自動車を中心として生活する地域もあります。夫婦の一方が鉄道、もう一方が自動車を利用する家庭もあります。駅から多少離れていても、道路交通、駐車場、買い物施設、学校、医療機関などが利用しやすければ、その家庭にとって十分便利な住宅になる可能性があります。
ただし、自分たちの現在の暮らしだけを見て住宅を決めることにも注意が必要です。子どもの成長によって通学先が変わり、勤務先や働き方が変わり、自動車を使う頻度も将来変化する可能性があります。住宅は長期間所有することが多いため、現在の生活に合っていることに加え、家族の変化へどの程度対応できるのかを考えておくことが望まれます。
また、購入価格とのバランスも忘れてはいけません。駅近住宅にはその利便性が価格へ反映されている場合があり、駅から少し離れることで同じ予算でも広い住宅や土地、複数台の駐車場などを選択できる可能性があります。その差額を住宅ローン負担の軽減や教育費、貯蓄などへ回すという考え方もあります。反対に駅から離れることで自動車が追加で必要になれば、購入価格以外の生活費が増えることもあります。住宅価格だけではなく、その場所で生活するための総合的な負担を見ることが必要です。
売却する側にとっても、住宅の価値を駅距離だけで考えないことが重要になります。駅に近いことは分かりやすい特徴ですが、駅から離れている住宅にも、土地の広さ、駐車台数、道路へのアクセス、周辺施設、住宅内部のゆとりなど、それぞれの特徴があります。それらを過度に美化するのではなく、購入希望者が自分の生活と照らし合わせられる情報として整理することで、その住宅に合った購入者へ価値が伝わりやすくなります。
不動産の立地価値とは、人気条件をいくつ持っているかだけではなく、「市場で評価される条件」と「そこで暮らす人にとっての便利さ」の両方から考えるものです。
駅徒歩5分の住宅が合う家庭もあれば、駅徒歩15分でも駐車場が二台あり、買い物や子どもの送迎をしやすい住宅の方が合う家庭もあります。在宅勤務のためにもう一部屋欲しい人もいれば、住宅面積を抑えてでも毎日の通勤時間を短くしたい人もいます。どちらが正しいというものではありません。
これから住宅を探すのであれば、物件情報を見る前に、家族それぞれの一週間を一度思い浮かべてみるとよいでしょう。誰が、何曜日に、どこへ、どの交通手段で移動しているのか。そして5年後、10年後にその動線がどのように変わりそうなのかを考えてみると、自分たちが住宅に求める「近さ」の意味が見えてきます。
共働き世帯の増加によって駅近の価値がなくなったのではありません。むしろ暮らし方が多様になったことで、駅近という条件を「誰にとって、どのくらい価値があるのか」まで考える時代になったといえるでしょう。駅までの距離、住宅の広さ、購入価格、交通手段、生活施設、将来の売却可能性。それぞれを別々に見るのではなく、自分たちの暮らしの中で組み合わせて考えることが、長く納得できる住まい選びにつながります。
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